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いいかんじに三十路突入

【雑考】保持力強化への科学的アプローチ

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我々クライマーは保持力!保持力!と声高に叫んでいるが、そもそも保持力とは何か。科学的なアプローチから理解を深め、トレーニングへと応用するために我々はアマゾンの奥地へと飛んだ...

というわけで、フィンガーボードも導入したわけだし、これを機に保持力トレーニングに関してまとめてみようと思う。

 

 

前提事項

ライミングに必要な能力を挙げていけば、単純な保持力の他にも、身体を引き上げ、さらにロックさせるための背筋力やキャンパシング等のコンタクトストレングス、人口壁ではコーディネーションに対応できる全身の連動性、傾斜を殺す脚さばき、適切なタイミングで全力を出し切るメンタリティも重要と、キリがない。ここで「ライミングで最も重要な能力は何なのか?それは保持力だと僕は答えたい。強力な筋肉も体力も指先を使って壁面に入力する事が出来なければ何の役にも立たない。」という小山田氏の言葉に立ち返ってみる。

ここでの保持力とは、ホールドに指をかけて静止した状態で耐えられる力として、以下の前提・基本的事項を述べる。

 

レーニングの3大原則

特異性の原則

対象となる特定部位の筋に対して負荷を与える必要がある(ex.スクワットをしても腕の筋肉は強くならない。)

・漸進的過負荷の原則

適切な負荷を進捗に応じて増やしていく必要がある(ex.同じ負荷ではいつか楽になってしまう。)

・継続性の原則

レーニングは一時的でなものではなく継続して行う必要がある(ex.三日坊主では意味がない。)

これらは筋力トレーニングにおける大原則だが 、保持力トレーニングに関しても同じことがいえよう。

 

筋収縮の様式

筋肉の収縮は大きく分けて、コンセントリックコントラクション短縮性収縮:CON)、エキセントリックコントラクション伸張性収縮:ECC)、アイソメトリックコントラクション等尺性収縮:ISO)の3つがある。

CONは筋肉が縮みながら発揮する力、ECCは筋肉が引き延ばされながら発揮する力、ISOは筋肉の長さが変わらない(静止した)状態で発揮する力のこと。

懸垂運動で動員される広背筋の役割で例えると、CONは身体を引き上げる力、ECCは上げた身体をゆっくりと下げる力、ISOは身体を上げる途中で静止して耐える力と表現できる。

 

アイソメトリックトレーニングによる保持力向上

出力に関していえば、最大筋力を発揮できるのはECCだが、動員される筋線維数がISOやCONに比べ少なく、1本の筋線維に対する負荷が大きくなり、筋損傷が生じやすい。つまりは筋を傷めやすい。また、ECCでは筋内圧の上昇が大きく(Aratow et al. j. appl.physical 76, 2634-2640, 1993)血流が阻害され、低酸素化が生じ乳酸が蓄積し酸性に傾き(端的に言えばパンプした状態)やすく、ECCを積極的に活用していくことは考えにくい。

次点で最大筋力を発揮しやすいのがISOである。

加えて、ホールディングは、指をかけて静止した状態で耐えるわけで、ISOの様式で筋が動員されているはず。つまりはアイソメトリックトレーニングが保持力の向上につながると考えた。

 

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レーニングの目的と3条件

レーニングメニューを組むにあたって必ず考えなければならないのが、まずは目的。ここは「アイソメトリックコントラクションにおける最大(絶対)筋力の向上」とする。次に目的に応じて「強度×時間×期間」の3条件を設定していくに当たりいくつかの項目に分けた。

 

①強度×時間の考察

これら3条件を組み合わせて比較検討した報告があり、絶対筋力はどのグループでも有意な増加がみられたが、最も効果のあった群は強度80%を6秒で、次点で100%を3秒であった。最大筋力持続時間は前述した2グループで有意な増加が認められたが、60%10秒と40%20秒では有意な増加は見られなかった。

絶対筋力・持久力向上には強度80%6秒間と100%3秒間が適している

 

②筋線維の肥大・最大筋力との関連

ここでは筋線維に関して掘り下げる。筋線維には大きく分けると遅筋(Type I)と速筋(Type II)という2つのタイプがあり、さらに速筋は速筋(Type IIb)と、遅筋に近い性質を持った中間筋(Type IIa)に分けられる。(瞬発的な最大筋力向上を考えると)保持力という観点からは速筋であるTypeIIを重点的に鍛えていく必要がある。また、アイソメトリックトレーニングによる筋力の向上には、筋周径囲の増大が伴うと報告されている。(Kanehisa and Miyashita 1983a;Kitai and Sale 1989; Meyers 1967; Rarick and Larson 1958)

速筋であるType IIを肥大させ筋力を向上していくことが保持力向上につながる

 

筋肥大が生じるかどうか、生じるとすればどの程度の筋肥大が生じるかは、以下の研究が示すように、筋線維と負荷の強度によって異なる

最大随意筋活動の100%でのアイソメトリック筋力トレーニングを9週間行ったところ、外側広筋のTypeⅠとTypeⅡの筋線維の直径は変化しなかった(Lewis et al. 1984)。最大随意筋活動の30%もしくは100%で16週間トレーニングを行ったところ、ヒラメ筋のTypeⅠとTypeⅡの筋線維の面積は約30%増加(Alway,MacDougall,and Sale,1989; Alway, Sale, and MacDougall 1990)。しかし、全く同じトレーニングプログラムでも、腓腹筋外側部はTypeⅡの筋線維面積のみが30~40%増加した(Alway, MacDougall,and Sale, 1989; Alway, Sale, andMacDougall 1990)

 →TypeⅠとType IIの筋線維の肥大・筋力の向上はいずれも、最大下および最大でのアイソメトリック筋活動によって生じる。また、筋によって筋線維の質は異なる。

 

これに加えて、低強度×長時間のトレーニングでも筋持久力が上昇したという報告もある。

最大強度(100%)短時間だけでなく低強度(30%)長時間のトレーニングも必要

連登し続けられる強度の長物ボルダーやリードがこれに相当するのでフィンガーボード以外で特別なワークアウトを加える必要はなさそうだ。

 

③トレーニングの継続期間

アイソメトリックトレーニングを6週間行うと、肘の屈筋の横断面積が5.4%増加し、アイソメトリック筋力が14.6%増加したが、筋力増加と横断面積増加の間には有意な相関関係は認められなかった(Davies et al. 1988)。対して、8週間のアイソメトリックトレーニングでは、アイソメトリック筋力が28%増大し、横断面積が14.6%増加し、筋力の増加と筋の横断面積との間に有意な相関関係が示された(Garfinkel and Cafarelli 1992)とある。

→筋線維の肥大と最大筋力の増加に相関が見られるには少なくとも8週間以上が必要

 

④トレーニングの頻度

頻度に関して言及している報告は今回は見つけられなかったが、筋力トレーニングでは基本的に48時間の回復期を置いたほうが良いとされている。現実的に考えてフルタイムワーカーでボルダリングジムに通いながらトレーニングも並行していくとなると無理のない範囲は週2~3回が妥当であろう。回復には個人差もあるので疲労と相談しながら故障をしない範囲で継続していく。

 

プランニング

以上を踏まえ、メインのトレーニングは強度80~100%×3~6秒間×週2~3回行う。なお1回のトレーニングあたりのボリュームは体調やパフォーマンスと相談していきながら決定する。

これに加えて、補助的に最大強度の30%程度で長時間可能な負荷を与えるレーニングを8週間以上続けていくと保持れるムキムキな前腕をゲットできるはずだ。少なくともパワーや見栄えに関して多少の進歩は認められるはず。

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まとめ

漫然と取り組むのではなく、機序を理解し目的意識をもって取り組めば得られる成果も多くなるし、きっとモチベも維持できる。まずはビーストメーカーアプリのプリセットを併用しつつ、適宜変更を加えながらやっていく。

12週ごとにサマリ作成、24週でフィードバックし改善していく。

 

***当記事は個人的な覚書程度のもので参考文献も都合よく解釈している部分も多少あります。実行の際は自身で一次情報を参考にしてください。