リードクライミングに握力は必要か
世間的には、クライミングって握力と腕の力で登るんでしょ?というような風潮があるものの、実際に登っていてそこまで握力が必要と感じたことはない。
ただ、漫画「孤高の人」では宮本はアホかのようにハンドグリッパーを握り続けているし、実際どうなん?ってことで調べてみると以下の報告が見つかった。
リードクライマーの手指筋群を評価した報告
「スポーツクライマーの手指筋群における筋力及び筋持久力特性の評価法-リードクライミングを対象として」(コーチング学研究 第28巻第1号, 53~64. 平成26年11月)
この報告をまとめていく。
被験者の割り付けと特性
クライマー群の特性は以上の通り。
非クライマー群(対照群)は運動習慣はあるがクライミング経験を持たない男性で主な運動歴は野球、テニス、サッカー、水泳など。
測定項目
・握力テスト:握力計を用いて片手ずつ計測。計測値は絶対値ではなく、最大値を体重で割った上で左右の平均値を算出する。
・保持力テスト:体重+ウェイトを背負った状態でメトリウス ロックリングスの一番下の穴(deep 3 finger pocket)をオープンハンドで3秒間保持し、定常となっている1秒間の最大値。これも体重で割った上で左右の平均値を算出する。
・保持耐久時間テスト:両手で左右ともロックリングスの一番下の穴(deep 3 finger pocket)を保持し、ぶら下がることができる時間を計測する。
結果・考察
クライミング能力による比較検討
・クライミング能力(RPグレード)と握力-有意な正の相関あり
・クライミング能力と保持力-有意な正の相関あり
・クライミング能力と保持耐久時間-有意な正の相関あり
全ての測定値で正の相関が認められたが握力との相関係数は他のふたつに比べてやや低かった。
群間の比較検討
・体重当たりの握力
クライマー群では初級、中級、上級の順で高い値となり各群間で有意な差を示した。また初中級群は非クライマーと比較して有意に低い値を示した。(運動習慣のある非クライマーの方が握力が強かった)この結果は、非クライマー群においては過去の運動種類(テニス、野球等)において握力が必要とされることが影響していると考えられる。
・体重当たりの保持力
クライマー群では初級、中級、上級の順で高い値となり全群間で有意な差を示した。またクライマー群は非クライマーと比較して有意に高い値を示した。
・保持力耐久時間
クライマー群では初級、中級、上級の順で保持力耐久時間が延長し、全群間で有意な差を示した。またクライマー群は非クライマーと比較して有意に長い値を示した。
まとめ
握力に関しては、非クライマー群に対してクライマー群で低い値を示したことからクライミングにおける筋力評価法としての妥当性に疑問の残る結果となった。このことから、握力を個別に強化する必要はなく、クライミング能力が上級となるころには必然的に握力も強化されているのだろうと推定できる。
いわゆる握力というのはコンセントリックコントラクションによる筋力の発揮であり、以前の記事でも書いたようにクライミングにおいてはさほど重要ではないのだと考えられる。
一方でクライミング能力と保持力、保持耐久時間は非クライマー群と比較して有意な差を示し、さらにクライマー群においてもクライミング能力の高いほど計測値も高くなることが示された。なお、こちらはアイソメトリックコントラクションによる筋力の発揮。
施行された試験の中でも、特に保持耐久時間は個人の自宅でも簡単に施行可能な試験であり、クライミング能力の客観的評価の指標になり得る。例えば、図8より保持耐久時間が1分であった場合、手指筋群の筋力・筋持久力的には5.11d相当のルートが登れると推定できる。また、自分のRPグレードに対して、平均よりも保持耐久時間が短い場合は、前腕の負荷をより減らすような体位や重心移動、動作技術等が優れていることが分かる。その場合はクライミング能力向上のためには手指筋群の筋力・筋持久力を強化すればよい。
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