大学山行が中止になったshoから『どこか行きませんか?』と誘われた。
それならば、と夏終わりに偵察に行った稲子岳南壁/左方カンテを提案すると、二つ返事のOK。厳冬期のアタックを想定して偵察していたので、もう少し早い時期に行きたい想いもあったが、暖冬の今年は早い時期でもほとんど雪がついていないので大差ないだろうと考え、アイゼントレーニングと割り切って計画した。
登山体系には『冬期でも雪がつくことは少なく、夏期とあまり変わりはないが、凹角やチムニーの中に氷が張って手こずることがある』との記載があり、その通りだった。
前回はみどり池、しらびそ小屋経由でアプローチしたが、今回は渋の湯、黒百合平経由での入山。概念、ルート、アプローチなどは前回偵察時の記録にまとめているのでそちらをご覧下さい。
ルート、行程など
稲子岳南壁 左方カンテ 15.5km 7h50min
渋の湯登山口(9:30)〜黒百合ヒュッテ(10:40-11:10)〜登山道分岐看板(11:35)〜取り付き(12:15-25)〜トップアウト(15:00)〜黒百合ヒュッテ(16:10-16:35)〜登山口(17:20)
黒百合ヒュッテを経由してのアプローチ
渋の湯の横を通り過ぎ、登山口で計画書を提出。このルートは去年の3月末にも歩いているが、気温は今回の方がかなり高く感じた。(この日は気温5℃)
バリバリ現役山岳部の20歳と猛スピードで登って行く。
ウェアは、上半身がFTの厳冬期用メリノとスキンメッシュ、下半身がモンベルジオラインEXPとモンチュラの冬用パンツだったが滝のように汗をかいた。タイツなんて要らなかったし半袖できたら良かった... 股間のチャックも全開ベンチレーション。
黒百合平までCT2時間半のところを1時間ほどで到着。ここで装備を整えるため大休止。
僕の八ヶ岳山行では天候が悪いことが多いけど今回はサッパリとした美しい八ヶ岳ブルーを引き当てた。
黒百合平から中山峠へ向かい、しらびそ小屋方面へと降っていく。
中山峠を下り始めると木々の隙間から今回の登攀目的である稲子岳の南壁が見え始める。
しばらく下り続け高度2230m付近の看板を探す。(アプローチ)
数日前の古いトレースが所々残っていた。踏み跡が分からなかったら、南壁に向かって行き、基部に達してから落石に注意してトラバースしていけばよい。
大きなルンゼが見えてくると取り付きはすぐそこ。このルンゼの向かって右手側に伸びるカンテが左方カンテである。テープと前回の記憶を頼りに取り付きへ。目印の赤いハーケンも健在だった。
稲子岳南壁、左方カンテを登攀する
取り付きでロープを結んで登攀スタート。今回はお互いアイゼン+手袋。核心セクションは素手で登ることもあった。今回は気温も高くずっと素手でも特に問題ない感じだった。
ロープは前回の学びから(各ピッチが短いため50mダブルでは持て余す)、40mシングルをメインロープに使用。懸垂撤退用のバックロープをザック内に忍ばせた。
1P目はクラックの走るフェースを15mほど直上すると右側壁にボルトがある。shoがリードで発射するが平爪でうまく乗れないスタンスがあるようで進めなくなっている。ゲレンデとは違い時間制限もあるので早々と交代した。
1P目終了点から振り返るとこんな感じ。
2P目は出だしの乗っ越しだけ少し怖いけど、あがってしまえば後はトラバース気味に登っていくのみ。
3P目は真ん中の凹角を直上してガレたテラスまで。クライミングシューズではハナクソみたいなピッチだがアイゼンでは凹角が地味に悪くて少し緊張した。
4P目は左側のコーナークラックのあるフェースか右側のチムニーを登る。
アイゼンでのフェースは厳しそうなのでチムニーを選択。
リードのshoがチムニーで悶えている間、ふと右手側の側壁に目をやると、垂壁にピトンやリングボルトが連打されていた。古くに栄えていた岩場だと聞いていたが、まさかこんな垂壁にまでルートが引かれているとは驚いた。エイドのルートなのだろうか。
チムニーの内部はこんな感じ。アイゼンでのステミングは安定しないので夏とは違う登り方になる。
チムニーを抜け左に少し行くと複数のビレイポイントがあるので好みのポイントで切ればよい。
4P目終了点から最終ピッチの5P取り付きテラスまではコンテで15mほど進む。
5P目は、左のルンゼの方にトラバースしていき草付きのある傾斜の緩いフェースを登るか、テラスから右手に見えるクラック沿いに尖塔を上がっていくか2択できる。前回はこのクラックを見逃してしまい、ルンゼ方面を詰めてしまった。
自分がリードで。ビレイはテラスに座って行えば安定する。
細いクラックやスタンスが多く、これまでのピッチよりは少し難しい。
核心は抜け口手前の2mほどのハンドクラックで内部は氷と水が少し残っていた。
クライミングシューズではレイバックすれば秒で解決できると思うが、アイゼンでレイバックは怖いし、慎重に正対で登った。落ちた時のためにプロテクション連打。心が弱い。
トップアウトすると安定したテラスに出る。残ったカムとスリング、残置のハーケンを利用してビレイポイントを作成。マスターポイントは固定した方が良かったな。残ったギアで作るのに少し時間がかかってしまい申し訳なかった。ロープの流れ自体が超屈曲しているので肩がらみでも全然悪くないかも。
トップアウトすると5mほどのクラックがあり、おかわり出来るけどアイゼンで登れるものではないのでスルー。右側に踏み跡あり。
山頂台地でロープだけ片して作業道を経由して一般道へ。
中山峠までの登り返しが地味にキツい上にシャリバテ気味で生アクビが止まらず。やっぱり、しらびそ小屋経由の方が登り返しがなくて楽かもしれない。
黒百合平で装備を解いて、1時間掛からずダッシュで下山。
最近ハマっている諏訪のラーメン食って、安ホテルでビール飲みながらアイゼン研いで、翌日のアイスに備えて就寝。
今回の装備、参考書籍など
古くから登られているルートに関しての情報量はピカイチ。ネットの記録と合わせていつも参考にしている。山域ごとの情報や特徴、由来など幅広く網羅されており、単純に読み物としても面白い。
3シーズンは同メーカーのトランゴタワー、TX4を使用。
冬は分厚いソックスやネオプレンソックスを使うことが多いので国内展開のないハーフサイズを使用中。インナーのボアクロージャージシステムが便利でありがたい。アプローチは緩めで履いて、登攀時はガッチリと増し締めするのは紐靴ではめんどくさいがこれならスムーズ。
G5と共に使用。平爪2本では片側が邪魔になって乗れないスタンスやフィンガーほどのクラックでかなり安定する。G5とセットで使用。調整に六角レンチが必要な点と、収納時に小さくできない点が少々めんどくさい。